私は修行をしていない
よくお客様から「フランスでは何年修行したのか?」とか「どの店で修行をしたのか?」と聞かれるが、私は修行はしていない。
修行とは・・・
- 悟りを求めて仏の教えを実践すること。
- 一切の欲望を断って心身を鍛練・浄化する宗教的行為。
- 技芸などを磨き練って自己をきたえること。
私は一度もこれに当たる行為をしたことがない。
一緒に働いていた仲間や先輩、後輩も修行している人は見たことがない。
自ら自分を追い込み悟りを開こうとした事もなければ、給料なしで働いた事もない。
もちろん滝にも打たれたことはない。
嫌な事も少しはあったが楽しい事の方がよっぽど多かった。仲間と仕事終わりのビールはうまかった。
シェフの悪口をみんなで飲みながら言い合ったりもした。
周りの料理人もみんなこんな感じだと思う、勉強や、練習はしても修行はしていない。
なんで私たちは辛い時期を修行で乗り越えた風に語られるのだろうか?崇高な職業のように扱われるのだろうか?
一昔前のフランス料理人の世界は確かにパワハラの巣窟だった。暴力や言葉の暴力は日常的だし、理不尽な
シェフや先輩だらけだった。
シェフに「魚が足りないからなんとかしろ!」と土曜の夜の仕事終わりに言われ、夜中じゅう24時間営業のスーパーを
彷徨った事もあるし。
ザリガニ(エクルヴィス)を探しに銀座4丁目から築地まで走り、それでも見つからず百貨店のペットショップを探し回った事もある。
基本シェフの顔色を伺いながら仕事をする。
修行という言葉で美化する風潮があった。
でもそれは修行ではない。職場、労働環境が悪かっただけ、修行中でもなんでもない。
みんなが料理人は修行しなきゃいけないって思ってるうちは働き手は増えないよね・・・
修行なんかしなくていいのに・・・
逆に経営者となった今、まさに修行をしてる。なかなか悟りは開けない。